STORY #18

【置いていった約束】

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到着予定の時間を過ぎ、チェックインは19時を回っていました。
慣れないレンタカーでの移動、
予想外の渋滞。切り返しの誘導をお手伝いすると、車から降りてきたお客様からは、
ようやく辿り着いたという安堵感と、隠しきれない疲れが伝わってきました。
 

「ご移動、お疲れ様です。どうぞごゆっくり」
 

そう言葉を添えると、小さめの鞄と夕食の袋を手に、静かにお部屋へと向かわれました。
 

後から聞けば、日々の忙しさからとにかく逃げ出したかった、
一晩だけでもいいから休みたかった、
それが正直なお気持ちだったそうです。ネットで偶然目に留まり、
インスタやサイトを覗くうちに
「きっとここなら」という確信めいた期待が生まれ、
気づけばすぐに予約を入れていたと。
 

夕食を終えたころでしょうか。フロントの対応を終えてふと気づくと、
お貸ししたランタンの明かりが彼女のテラスに灯っていました。
椅子を持ち出して、ただ静かに海を眺めている——
その横顔が、夜の空気の中にありました。
月明かりがそっと彼女を包み込むような、やわらかい夜でした。

 

翌朝、朝食の湯気の向こう側。
 

その日の朝食は、鰹の一番出汁と昆布を合わせた澄んだ汁に、
沖縄独特のゆし豆腐——型に固める前の、

やわらかく滑らかな豆腐をそっと浮かべたもの。
あおさとねぎが、静かな香りを添えます。

にんじんしりしり、島の食材をふんだんに炊き込んだジューシー、
そして浜比嘉の遠浅の海で育てられたモズク。

見慣れたそれとはまるで別の、磯の息吹がそのままのような一皿でした。


 

大きく開け放たれた扉の先に、テラスがあり、その向こうにはただ、海がありました。

室内にいながら潮の気配が届いてくる。波の音が、BGMのようにそっと流れている。

どこからが外で、どこからが内かもわからないような、そんな朝の食卓でした。

 

「美味しかったです。心ほぐれる味でほっこりしました」

 

愛情が溶け込んだ料理が、強張っていた心を静かに解かしていく。
来てみたらイメージそのままで驚いた、

もう少しここに居たいと思うほどあっという間だった——そんな言葉が、
ゆっくりとこぼれてきました。

「次はもっと、ゆっくりしに来ますね」

そう言って、置いていった約束を胸に、風のように帰っていかれました。

 

 

車で行ける離島の、道の突き当たり。日々ここでお迎えする私たちには、
都心での生活の重さを、きっと本当には想像できません。
 

人の多さ、街の喧騒、絶え間ない情報、

「仕方ない」と飲み込み続ける日々——それでも続いていく生活の話を、

訪れるたくさんの方から聞かせてもらいながら、今日もお迎えをしています。

 

だからこそ、この場所が、少しだけ本来の自分に戻れる場所でありたいと思います。

呼吸が深くなる場所。何もしないでいい場所。渋滞の先にそっとある、
小さな入り口でありたいと。

シーサー・ハマ

WRITER

シーサー・ハマSeaser Hama

413hamahiga hotel&cafeの物語を担当する守神 
シーサー浜と申します。
どうぞお見知りおきを。

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