STORY #22

【白い箱の先へ 】

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沖縄本島、中部。北谷町砂辺。

嘉手納基地に隣接するこのエリアは、地元の人たちと在沖アメリカ人が混在して暮らす、どこか境界線の曖昧な一帯だ。
西海岸沿いには波を待つサーファーが絶えず、十二月だというのに気温は24℃近くまで上がっていた。
日差しはまだ夏の名残を引きずり、風だけが北に向きを変えている。

今回は海には入らないつもりだった。
散策して、気が向いたらシャッターを切る。
それくらいのつもりで来たのに、気づけば同じ場所に2時間ほど立っていた。

 

小腹が空いて、スマホで近くの飲食店を検索する。
アメリカンな雰囲気の一軒を選び、車を走らせた。

雑多な住宅街を抜けると、ナビが到着を告げた。
そこにあったのは、平屋の白い箱のような建物だった。
小さなサイン。開け放たれた入り口。
屋根は高くなく、住宅の延長のような佇まい。

店内は白く、オレンジがかった照明がぼんやりと空間を包んでいる。
椅子もテーブルもまちまちで、揃えられすぎていない。それが、妙に落ち着いた。
午後二時を過ぎていたが、メニューのアメリカンブレックファーストに惹かれて
「まだ大丈夫ですか」と尋ねると、
スタッフは笑顔で「いつでも大丈夫ですよ」と答えた。

コーヒーはブラックで。そんなやり取りも、気取らない。
運ばれてきたマグカップは、東京で見るものの倍はあった。

トイレを借りようとすると、「そこ、右です」と案内される。
中に入ると、AFNのラジオが流れていた。
そして、バスタブがあった。そこに観葉植物が並べられている。

——あ、ここは住宅だったんだ。

胸が、静かに動いた。
会計のとき、素直に聞いてみた。
「そうですよ、外人住宅だったんです。この辺は、こういう建物をリフォームしたお店が多くて」
車に乗り込み、エンジンをかける。数秒、頭の中で同じ言葉がループしていた。
外人住宅。

外人住宅という言葉が、風景になる
エンジン音の中でスマホを手に取り、「外人住宅」と検索する。画像が並ぶ。

地図が浮かぶ。点在する白い箱が、
一本の線としてつながっていく——その瞬間、言葉が風景に変わった。
高台。海が見える場所。風が抜ける立地。

アメリカではない。沖縄にある、アメリカ。

戦後に持ち込まれた建築様式が、この土地の風土と時間に馴染み、
生活として根づいていった。外人住宅は異物ではなく、
景色のいい場所に、風が通る場所に、
暮らしやすい場所に、選ばれて建てられてきた。

気づけば、本島のあちこちを巡っていた。

 

 

道の突き当たり

 

そうして辿り着いたのが、浜比嘉島だった。
橋を渡り、島を進み、道の突き当たりまで行く。

そこに、また白い箱があった。

 

413 hamahiga hotel & cafe。

 

初めて見るのに、どこか知っている感覚があった。
これまで巡ってきた白い箱の延長線上に、確かにここがある。
カフェで過ごしながら、風の抜け方を感じた。光の入り方を見た。
この建築は、説明されなくても、身体に伝わってくるものがあった。

 

外人住宅が好きで、このあたりを巡っている——そう話すと、
オーナーは静かに頷き、棚から一冊の写真集を差し出した。

 

「たぶん、これ好きですよ」
ページをめくる。高台に建つ白い箱。海を切り取る窓。芝生と影。
「沖縄の外人住宅を撮っている、岡本尚文さんの写真集です」
同じものを見てきた人が、確かにいる。


続けて、オーナーが言った。
「この建物は、東京を拠点に活動されているアルクデザイン一級建築事務所の増田先生に設計していただきました」
黒川紀章氏のもとで実務に携わっていたこと。413以降、沖縄でも設計の依頼が増え、本島内に作品が点在していること。
説明は多くなかったが、十分だった。
413は、外人住宅をなぞった建築ではない。時間と土地を引き受けた、現在進行形の白い箱なのだと思った。

 

泊まるという距離

 

一年ぶりに、浜比嘉島を再訪した。今回は、泊まる側として。
白い壁。大きな窓。海と芝生。

花ブロックが風と光をやわらかく通し、天窓が時間とともに影の形を変えていく。
泊まって初めて、この建築が完成するのだと分かった。

 

白い箱の先への流れ
浜比嘉島の西の端。海と空の境界が、ゆるやかに溶け合う場所がある。

 

 

設計した人のこと

 

413 hamahiga hotel & café の設計を手がけたのは、増田政氏。
「光・風・人の居心地」を軸に住宅を設計し続けてきた建築家だ。

 

長崎県五島列島の出身。大学で建築を学び、ゼネコン、ハウスメーカーを経て、
黒川紀章建築都市設計事務所に在籍した。

1987年に独立し、アルクデザインを設立。現在は一級建築士事務所として、
住宅やリノベーション、集合住宅を手がけている。

 

 

外人住宅という文脈

413は、外人住宅の思想を引き受けている。

戦後の沖縄に建てられた白いコンクリートの住宅群。広いリビング、大きな窓、風の抜ける間取り。
アメリカ軍人とその家族のために設けられたそれらは、しかしこの土地の気候に、驚くほど素直に馴染んでいた。
亜熱帯の光と風と雨とともに暮らすための、知恵のかたちだった。

 

増田氏との打ち合わせを重ねながら、求めたのは「建築のデザイン」ではなかった。
浜比嘉の風に似合う建物として、ここに在ること。それだけだった。

 

身体で分かること
厚みのあるコンクリートの壁は、強い日差しをやわらかく受け止める。水平に伸びる軒が、陰影をつくる。
窓からは海風が抜け、光が一日かけてゆっくりと色を変えていく。

 

あるゲストが言った。「ここは少しだけ、パームスプリングス・スタイルにも似ているね。」
確かにそうかもしれない。でもその根にあるのは、この土地が育んだ風と光の文化だと思う。

 

時間が、ここに居る
昼下がりの静寂。夕暮れに染まる白壁。夜とともに現れる星の群れ。
それらが建物の輪郭を、やさしく変えていく。
泊まって初めて分かること、がある。

 

機能でも装飾でもなく、暮らすように滞在するための空間として


——413 hamahiga hotel & café は、今日もここに在る。

シーサー・ハマ

WRITER

シーサー・ハマSeaser Hama

413hamahiga hotel&cafeの物語を担当する守神 
シーサー浜と申します。
どうぞお見知りおきを。

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