STORY #3

【最果てに灯る宿】〜Vol.0 はじまりの5年〜

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最果てに灯る宿

Vol.0 はじまりの5年

沖縄本島の人々にとって、浜比嘉島は「近くて遠い島」でした。神話につつまれた「神の島」、祈りの島。1997年に浜比嘉大橋が開通するまで、船が唯一の交通手段で、そう簡単には足を運べない場所でした。

でも、だからこそ。浜比嘉は今もなお特別であり続けています。集落の祈りの場、伝承がやさしく息づく土地、しずかな空気。島の奥へとのんびり車を走らせていくと、アスファルトの道は次第に細くなり、やがて砂利道へと変わって、いつしか途絶えます。そこは海と山にそっと抱かれた突き当たり――潮の香りと土の匂いが混じり合う場所。目の前には海原が広がり、海中道路が島々をそっとつないでいます。その向こう、金武湾を挟んだ本島の山々がうっすらと見えて、誰にも邪魔されない“最果て”が、ゆっくりと訪れる人を迎えてくれるのです。

そんな場所に、2013年の七夕の日、ひとつの小さな宿が生まれました。

建物は在沖アメリカ軍のハウジングスタイルをベースに設計されて、ブロックを積み上げた白い壁と直線的なライン、そして光と風をやさしく受け止める花ブロックが、島の風景にふんわりと溶け込んでいました。きらびやかさや派手な装飾はありません。むしろそのやさしい素朴さが――花ブロックが作り出す揺れる影のパターン、軒先を渡っていく潮風の音――この土地にぴったりの表情を作り出していました。

窓の向こうには一面のうるまブルー。朝はふんわりやわらかく真珠のような光沢をまとい、昼はいきいきと力強く青さを増して、夕暮れには茜色にほんのり染まりながら黄金色の波紋を刻んでいく。光の角度に合わせてゆっくりと変わっていく色合いが、訪れる人の心をそっととらえ続けました。

目の前に広がる浜ビーチ(ふるさと海岸)は、遠浅でとても穏やかな海です。素足でそっと歩くと、きめ細かな砂のやわらかさに足がふんわり沈んで、足裏に残る冷たい感触がじんわりと心地いい。潮が満ちると鏡のように光をきらきら映し出し、干潮になると美しい砂紋がひっそりと現れます。波打ち際から聞こえてくる子どもたちの楽しそうな笑い声と、潮風にのってくる海の匂い――それは塩っぽさの中にかすかな磯の香りと太陽の温度を含んだ匂い――が、いつもの忙しい時間をゆっくりとほどいてくれました。

客室はたった6室だけ。大きなリゾートのような華やかさはないけれど、木のあたたかさを感じる家具と、風にそよぐ白いカーテンが心をほっと和ませてくれます。朝は鳥たちのやさしいさえずりで目が覚めて――それは沖縄でスーサーと呼ばれるイソヒヨドリの透き通った声と、遠くから聞こえるウグイスの鳴き声――、夜は窓を大きく開け放って、ベッドにごろんと横になったまま満天の星をのんびり眺められます。天の川がくっきりと見えるその夜空からは、波音だけがリズムを刻んでいました。最果ての地だからこそ味わえる、宇宙にいちばん近い夜がそこにありました。

小さなカフェでは、ハンドドリップで丁寧に淹れたコーヒーのやさしい香りと波の音がゆったりと響き合って、木製のテーブルに差し込む西日が琥珀色に輝いています。西の空がオレンジからむらさき色へとゆっくり移ろう頃、旅人たちはそっとグラスを傾けながら――氷がグラスに当たるかすかな音を耳にしながら――、静かにその美しい瞬間を分かち合っていました。

5年という時間は、本当にあっという間でした。
何度も訪れてくださる常連のお客さまは口を揃えて「誰にも教えたくないなあ」なんて言いながら、この宿をとっておきの場所として大切にしてくださいました。そして西海岸や八重山、宮古の魅力を知り尽くした沖縄リピーターの方々も、だんだんと自分だけの特別な場所として――誰にも邪魔されないこの最果ての島へと、そっと足を向けてくださるようになりました。

浜比嘉島の突き当たりに静かに佇む、たった6室の小さな宿。それはけっして華やかではないけれど、訪れてくださる人の心に深くやさしく残り続ける、かけがえのない「拠点」となっていったのです。

そして2018年、この小さな宿に新しい風が吹き込むことになります。
創業者から私たちへと、413 hamahiga hotel&cafeのバトンがそっと手渡されました。それは単なる事業の引き継ぎではなく、この場所に込められた想い、積み重ねられてきた時間、そして「最果て」という特別な価値を、次の時代へとつないでいく約束でした。

受け取ったバトンは、想像以上に重く、そして温かいものでした。
この場所で何が生まれ、何が育まれ、そしてこれから私たちは何を紡いでいくのか――。

その想いを胸に、私たちの物語は新しいページへと続いていきます。

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