STORY #4
【最果てに灯る宿】 第1章 知らなかった島
170views
2013年の春、そのときまで私は浜比嘉島という場所を知らなかった。 ここから、413 hamahiga hotel&cafeへと連なる物語が静かに動き始める。最果てに灯る宿
第1章 知らなかった島

沖縄本島で妻と共にアパレルと音楽を軸に日々を駆け抜けていた。ショップの運営、イベントやフェスの企画、DJ活動。音響設備のインストールも手がけていた。買い付けのために県外や海外へ飛び回ることも多く、毎日は刺激的で、息つく暇もないほど慌ただしかった。
外の都市で新しいものに触れる機会は多く、それは確かに魅力的だった。けれど、そうした場所に立つたびに「沖縄には沖縄にしかない価値があるのではないか」という思いが少しずつ芽生えていた。外を知れば知るほど、逆に自分が立っているこの島のポテンシャルを意識するようになっていた。
そんなある日、店に顔なじみの若者たちがやって来た。
「タナさん、お疲れさまです」――いつもより少し改まった表情。何か相談がありそうだと直感した。
「実は、浜比嘉島で小さなホテルを立ち上げているんです。カフェに音響を入れたいんですが、インストールをお願いできませんか?」
浜比嘉島――その名前を耳にしたのは、このときが初めてだった。地図の上では知っていても、足を運んだことは一度もない。沖縄本島の東海岸に浮かぶ小さな島。橋がかかり、車で行けるようになったのは90年代後半。それまでは船でしか渡れず、私にとっては「地図の中の知らない島」にすぎなかった。
しかし、彼らの熱意に押されるように現場へ向かうことになった。数日後、私は初めて車で浜比嘉大橋を渡った。海の上に真っすぐ延びる道。両側に迫るウルマブルー。窓を開けると潮の匂いが車内に入り込み、どんどん景色が変わっていく。
一本道を突き当たりまで進むと、不意に視界が開けた。――「何だ、ここは」。

そこに広がっていたのは、どこまでも続くパノラマの海だった。背後には手つかずの丘。人の姿はなく、ただ自然だけが残されている。盛り土された小さな高台には、建設途中の建物がぽつんと立っていた。まさに大人の隠れ家のような場所。その瞬間、心の奥底で「こんな場所が沖縄にあったのか」と声が漏れた。
建物はまだコンクリート剥き出しで、配線工事もこれからという段階。バックヤードに入り、電源盤や配線ルートを確認しながら二箇所にスピーカーを、裏にアンプとプレーヤーを設置するイメージを描いた。
「これでバッチリですよ。写真付きで見積もりを出しますね」――そう伝えて数枚の写真を撮り、島を後にした。

後日、見積書を送るとすぐに「ぜひ進めてください」との返事。商品が届いた翌週、東京からオーナーが来るタイミングに合わせて工事を進めることになった。その日、初めて紹介されたのが石原さんだった。
体育会系の雰囲気をまとい、清潔感のある人物。第一印象は「真っ直ぐな人」。
「いつもお世話になってます、石原です」――差し出された手を握った瞬間、この人となら真剣に向き合えるという直感があった。
工事を進める合間、施設の構想や今後の展望について話を聞くようになった。
「七夕の日にオープンを予定しているんです」
「それならあと2か月ですね。何か手伝えることがあったら言ってください」

その言葉を口にしたとき、私はもうただの施工業者ではなく、このプロジェクトの未来を一緒に考える立場に足を踏み入れていた。

WRITER
シーサー・ハマSeaser Hama
413hamahiga hotel&cafeの物語を担当する守神
シーサー浜と申します。
どうぞお見知りおきを。
ROOMS
CONTACT
ご宿泊・カフェに関するお問い合わせは下記よりご連絡ください。





